本質は「相手の反応」にある – インサイトコミュニケーションズ代表 紫垣樹郎氏(3/5)

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KOLEIZOSCOPEインタビュー第2回は、株式会社インサイトコミュニケーションズの代表取締役、紫垣 樹郎さんのお話を伺いました。
紫垣さんとは、以前「伝説の新人」というセミナーで私が講師の一人として協働させて頂いたご縁で交流が始まりました。紫垣さんは、経営・組織人事の課題とクリエイティブ分野の専門性をつなぐことができる数少ないプロフェッショナルです。期待を胸に、虎の門のオフィスに紫垣さんを訪ねました。


  1. クリエイティブとの出会い
  2. 人の心が動くものを
  3. 本質は「相手の反応」にある
  4. グローバル化と企業理念
  5. 経営者のリテラシーとして

3:本質は「相手の反応」にある

古森
その後、すぐに独立されたのですか。
紫垣
すぐにではありません。ナイキの仕事をしたあたりから、いずれリクルートを出なければならないという思いはありましたが、その前にもう一仕事させて頂きました。それまでのクライアントに対してクリエイティブで価値を提供する制作側の立場から、社外のクリエイティブ・リソースを使ってリクルート社として自社の商品やサービスの広告宣伝を行う仕事が巡ってきたのです。
古森
それまでとは真逆の立場ですね。
紫垣
ここで初めて、大手の広告代理店と「顧客として」向き合うという経験をしました。数億円単位の巨額の予算を使って、一流と言われる社外リソースを集めて、リクルートのことを世に伝えていく仕事です。その中で、色々と衝撃的な発見がありました。自分がクリエイティブの世界で何をしたいかが、さらにクリアになりました。

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古森
何を見たのでしょうか。
紫垣
端的に言いますと、「クリエイティブの仕事に関して、こだわりどころが違う」ということです。大手代理店には大手のやり方があるのでしょうが、「顧客企業が何を伝えたがっているか」「どうしたら世の中の人々に伝わるか」という企画段階において、現場まで情報を取りに来る人は一人もいなかったのです。「私なら、こんな情報を得ようとするだろうな」という場面で、誰も聞きに来なかったのです。
古森
広告宣伝で伝えたい核となるものを、探しに来る人がいなかったと・・・。
紫垣
大手ですから、たくさんのクリエイターを抱えています。プレゼンではそこから出てきた案を複数並べて、「どれがいいですか」と聞かれました。私から逆に、「御社としてはどれがお奨めなのですか」と代表者に問い返したら、「それは答えられません。社内のクリエイター同士で競争させていたますので」と。クライアントの課題解決より先に、代理店のクリエイターのチャンス作りが優先されているように見えました。大手には大手の事情もあったのでしょうが、私ならそういう仕事の仕方はしません。会社規模に関わらず、クリエイティブの仕事が目指すべきものは変わらないはずです。
古森
クリエイティブワークの顧客側に立つ経験によって、ご自身がクリエイティブの仕事で大事にしたいことに確信を深めていかれたのですね。
紫垣
結局、クリエイター側の都合でコピーやビジュアルを作っても意味がないのです。この仕事は、コミュニケーションというものの本質を突き詰めて考える必要があります。コミュニケーションの意義って、何でしょうか?「伝達する」だけでは不十分です。情報の出し手が伝えたいと思っていることがクリアにされ、それが伝えたい相手に伝わって、相手がどのような反応を起こすか。コミュニケーションの本質は、「相手の反応」にあるわけです。そこを計算しつくして発信される情報は、人の心を動かします。そうでないものを発信しても、人の心は揺れないのです。
古森
そのような信念が紫垣さん自身の中で言語化されて、独立を決意されたのですね。
紫垣
そうですね。おりしも当時40歳、信じるものを迷わず追求し続けていくために独立を決意しました。

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