波乱の船出~ブランディングにかける – ムーンスター代表 猪山渡氏(1/5)

The Value Talk 4 株式会社ムーンスター 代表 猪山渡さん

  1. 波乱の船出~ブランディングにかける
  2. MADE IN KURUMEとShoes Like Pottery
  3. 斬新な足型計測、Genki-Kidsの挑戦
  4. フロンティアとしての海外市場
  5. Time with pride ~ ひたむきに、歩み続ける。

Chapter 1:波乱の船出~ブランディングにかける

古森
moonstar-photo01本日はお忙しい中にお時間をいただき、ありがとうございます。ムーンスターさんというと、私の世代では間違いなく「月星」のブランドで学校の上履きなどを思い出します。140年におよぶ長い歴史を経て、今またムーンスターとして新しい歴史を刻み始めている中で、経営としての思いや考え方、重点事項などについてお聞かせ頂ければと思います。よろしくお願いいたします。
猪山
こちらこそ、よろしくお願いします。東京から久留米の地までお越しいただき有難うございます。おっしゃる通り、今まさにムーンスターとして新たな動きが着々と形を帯びつつあるところです。今日は、「つきほし歴史館」や技術開発の現場、久留米工場などを先に見学いただいたのですね。いかがでしたか。
古森
はい。とにかくもう、本当に心を動かされました。私は、今でこそ東京におりますが、生まれは福岡、育ちは大分ですので、久留米とは近い地域で長く過ごしたのです。しかし、久留米に来たのはこれが初めてといっても良いくらいです。今回こうした機会をいただき、あらためてムーンスターさんの現場の取り組みを伺って、「こんなところがあったのか、知らなかった!」と正直驚いています。
猪山
そうですか、ありがとうございます。この会社の長い歴史を、私が経営者として引き継いだのが5年ほど前になります。私もずっとここで働いてきまして、素晴らしいものがたくさん息づいている会社だと思っています。しかし、経営のバトンを受けた時、状況としてはかなり厳しい状態からのスタートでした。そこから5年、この会社の持つ良いところを今日の経営環境下でどう生かしていくかということが、私の最大のチャレンジとなっています。
古森
長い歴史のある業界ですし、その歴史を作ってきた企業の一つとして、古きよきものと変えるべきものが色々とあるのでしょうね。
猪山
そうですね。いわゆる「ゴム・履物業界」ですが、非常に保守的なところがあります。もともと「学販」といわれる学校などからの安定的な需要があった世界で、小売りのチャネルも町の靴屋さんが中心でした。高度成長期には、輸出も大きく伸びました。しかし、時代は変わりました。国内市場はマクロでは横ばい傾向にあり、小売りチャネルは以前とは比べ物にならないほど大手流通による寡占化が進みました。生産拠点の多くは海外にシフトしています。そして、円高でも価格転嫁は難しく、一方で円安に振れれば国内市場で利益を出すのは至難の業です。業界全体が、大きな変化の波にさらされています。そんな中で、弊社も苦しい時代が続きました。
古森
昔ながらの業界の前提や常識がガラガラと音を立てて崩れていく中で、業界の象徴の一つであった御社もその波にのまれていったわけですね。
猪山
moonstar-photo02弊社の場合は、いわゆる「月星」の学販に加えて、コンバースやニューバランスといった海外ブランドの総代理店としての収益も非常に大きかった時代を長く過ごしました。しかし、売り上げが伸びてくればそうしたブランドの本体が自力でビジネスを展開するフェーズに移るのは自然な流れです。総代理店としてのビジネスを失ったのを契機に、今お話ししたような業界全体の流れともあいまって、非常に厳しい経営を迫られる時代が続きました。
古森
そんな中での経営者就任だったわけですね。苦境から脱し、新たな成長へと舵を切って行くうえで、根本的には何を軸にしておられるのですか。
猪山
ずばり、ブランディングです。
古森
ブランディング・・・。
猪山
この会社に存在する良いものが、今の時代の文脈の中で十分にお客様に伝わっていないというのが、私がもっとも重視している経営課題の一つです。もちろん時代や環境にあわせて変えるべきものは変えていくのですが、変えてはいけない遺伝子のようなものもあります。それが、弊社の場合はモノづくりの現場を中心に組織内に生きています。きちんと伝われば競争力になります。過去においては、保守的な業界環境の中で、自分たちの良さを製品の実物以外を通じて訴求するなどということは考えられませんでした。実際、今でも社内に異論はあります。しかし、私は、今の時代は良さを積極的に伝えるべきだと思うのです。
古森
同感です。消費者が自力で得られる情報が飛躍的に増えていますし、企業と消費者の間の情報伝達の経路も複雑化・多様化しています。世の中に伝えるべき良さを自分たちがまず言語化・可視化して認識することと、伝え方にも単線的でない様々な工夫を凝らすことが大事ですね。多様性が高い環境下では、「語らない人はいないのと同じ」になります。製品の世界でも同じです。語れば良いというものではありませんが、やはり語らなければ伝わりにくいですね。/dd>

猪山
実は、社名を月星からムーンスターに変えたのは、2006年にさかのぼります。しかし、当時は経営状況が既に非常に苦しくなっていたために、本腰を入れたブランディングの取り組みが出来なかったという経緯があります。しかし、伝えるべきものがこの会社の内部に息づいていることは変わりがありません。遅すぎることはない、今こそムーンスターとして本当に伝えたかったことを思い切り伝えていこうと決意しました。
古森
ムーンスターらしさを自ら意識し、世界へ伝えていくことを経営の基軸にすえられたのですね。

>> 2.MADE IN KURUMEとShoes Like Pottery