人の心が動くものを – インサイトコミュニケーションズ代表 紫垣樹郎氏(2/5)

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COLEIZOSCOPEインタビュー第2回は、株式会社インサイトコミュニケーションズの代表取締役、紫垣 樹郎さんのお話を伺いました。
紫垣さんとは、以前「伝説の新人」というセミナーで私が講師の一人として協働させて頂いたご縁で交流が始まりました。紫垣さんは、経営・組織人事の課題とクリエイティブ分野の専門性をつなぐことができる数少ないプロフェッショナルです。期待を胸に、虎の門のオフィスに紫垣さんを訪ねました。


  1. クリエイティブとの出会い
  2. 人の心が動くものを
  3. 本質は「相手の反応」にある
  4. グローバル化と企業理念
  5. 経営者のリテラシーとして

2:人の心が動くものを

古森
クリエイティブの世界で、社内外で高い評価と認知を受けた20代。その後、紫垣さんの仕事はどのような展開を見せていったのでしょうか。

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紫垣
当初は、「とにかく面白い表現や新しい表現で人を驚かせたい」と思っていました。実際、コピーライティングの分野では様々な形で活躍することが出来ました。しかし、30代前半に大きな転機が訪れたのです。
古森
転機・・・。
紫垣
その時から、今に通じる大きな軸が見えてきました。私がやりたいのは、「クリエイティブの力を使って人に勇気を与え、前向きになるようにしていくこと」だと。それを実現するために自分の力を使いたいと思うようになったのです。
古森
何がそのような覚醒のきっかけになったのでしょうか。
紫垣
ある時、リクルートの人材系の事業部門で1,500人くらい集まるイベントがありまして、そこで使うクリエイティブ制作を依頼されたのです。事業部門のトップからは、「みんな仕事の目的が見えなくなって疲れている。私たちの事業の意味を再認識できるような映像を制作してほしい」というオーダーがありました。
古森
事業においてもっとも本質的な部分を描き出してほしいと・・・。
紫垣
それで、私は現場のインタビューを重ねていきました。社内の声はもちろん、クライアントの声や、リクルート社の媒体を利用して転職をしたユーザーの方々にもインタビューをお願いしました。すると、「リクルートの情報をきっかけにして人生が変わった」という声が数多く出てきたのです。まさに、その部門の仕事が世の中に価値を生む瞬間を可視化することができました。そうした声から事業の本質的価値を言語化し、一本の映像をまとめあげました。
古森
ユーザーの声にこそ、真実がありますね。
紫垣
そしてイベント当日。その映像を流したとき、衝撃的な光景が私の目の前に広がっていました。多くの参加者が、その映像を観ながら泣いていたのです。多忙を極め、数字で厳しく評価される日常。しかし、その向こうにある大きな「意味」を、皆が映像を通じて再認識したのです。人々の感情が、動いたのです。そして、多くの仲間から「ありがとう」という言葉を頂きました。その時、「ああ、私はこういう仕事がしたいんだ!」と悟ったのです。
古森
それが覚醒の瞬間でしたか。
紫垣
それからというもの、企業理念や「仕事の意味」に関わる案件をリクルートのクライアント企業からも頂くようになりました。それらを積み重ねていくうちに、「その会社は本当に何を目指しているのか」「どうやったらその会社の人々の心が動くのか」ということについて、感覚が研ぎ澄まされていきました。
古森
イベントに参加していた営業職の方々を介して、評判が社外にも広がっていったわけですね。
紫垣
そうですね。もう一つ、自分のクリエイティブ観の形成に決定的なインパクトがあったのは、ナイキの仕事です。
古森
ナイキの仕事?リクルート在籍中に・・・ですか?
紫垣
はい。守秘性もありますので詳しくはお話しできませんが、当時ナイキがゴルフ市場に打って出るタイミングにありまして、そのプロモーションに携わるチャンスが転がり込んできたのです。リクルートとしてではなく紫垣個人として、です。それまでリクルート以外の仕事は当然のことながら断ってきたのですが、さすがにその時ばかりは、「これは何としてもやるべきだ」と思いました。私自身ゴルフが好きでしたし、タイガー・ウッズにも憧れていましたから(笑)。とにかく「やる」ということを心に決めて、会社に相談しました。競合するわけではないから、やらせてほしいと。
古森
会社の反応は・・・。
紫垣
「勝手にやれ」ということでした(笑)。そのあたり、やはり度量の大きな会社だったなと思います。
古森
ナイキのプロモーションの仕事では、どのようなこだわりを?
紫垣
それまでのゴルフの広告というのは、「いかに飛ぶか」など、性能・機能面を強調するものが主流でした。私は、「どうすればゴルファーの心が動くだろうか」「ゴルファーの気持ちが揺らぐものを作りたい」と思って取り組みました。
>> インサイトコミュニケーションズ社 事例紹介ページ:ゴルファーという名のアスリートへ(ナイキゴルフ ブランディングキャンペーン)
古森
やはり、「心」に対するアプローチなのですね。その成果は、いかがでしたか。
紫垣
大成功でした。結果的には日本市場だけでなくナイキのグローバル本社にも認められて、提案した企画が世界規模で採用されることになりました。
古森
なるほど、そのような経験を通して、「人の心を動かす」ことに徹底してこだわる紫垣さんのスタイルが確立されたのですね。

>> 3:本質は「相手の反応」にある