グローバル化と企業理念 – インサイトコミュニケーションズ代表 紫垣樹郎氏(4/5)

KOLEIZOSCOPEインタビュー第2回は、株式会社インサイトコミュニケーションズの代表取締役、紫垣 樹郎さんのお話を伺いました。
紫垣さんとは、以前「伝説の新人」というセミナーで私が講師の一人として協働させて頂いたご縁で交流が始まりました。紫垣さんは、経営・組織人事の課題とクリエイティブ分野の専門性をつなぐことができる数少ないプロフェッショナルです。期待を胸に、虎の門のオフィスに紫垣さんを訪ねました。


  1. クリエイティブとの出会い
  2. 人の心が動くものを
  3. 本質は「相手の反応」にある
  4. グローバル化と企業理念
  5. 経営者のリテラシーとして

4:グローバル化と企業理念

古森

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組織人事系の文脈でのクリエイティブワークが得意な紫垣さんとしては、日本企業のグローバル化における経営理念浸透について、どう見ておられますか。というのは、組織人事分野に軸足を置いた経営コンサルタントとして、私はこの点に強い課題意識を持っているからなのです。非常に素晴らしい経営理念を持った企業が日本にはたくさんあります。しかし、なかなかその良さが世界人類には伝わっていません。もっと上手に世界に伝えられないものかと、常々歯がゆい思いをしているのです。
紫垣
今まさに、クリエイティブワークが動き始めている分野ですね。私も最近、いくつか経験しました。例えばある日系企業では、事業と組織のグローバル化に伴う価値観の再定義・浸透活動の一環として、私どもインサイトコミュニケーションズを活用して海外拠点のインタビューを実施しました。その企業のコアとなる価値観が海外の現場で体現されている場面がないか、実際に探してまわったのです。その結果、想像以上に豊富なエピソードを得ることが出来ました。
古森
エピソード、大事ですよね。国境を越え、カルチャーも言語も違う人々に価値観を語る際には、抽象度の高い概念ではなく、「それが現場の実際の行動ではどういうことを意味するのか」を見せていく必要があると感じています。それをまさに、拾いに行ったわけですね。
紫垣
そうして収集したエピソードを企業としての価値観の軸に紐づけながら編集して、一本のムービーに集約しました。日本と海外の拠点を網羅した、現場の価値観エピソード集です。これを、マネジメント層を世界各地から集めたイベントで上映して、パネルディスカッションなども絡め、有機的に価値観を議論する触媒にして頂きました。
古森
なるほど、かなり有機的で濃密なイベントになったことでしょうね。
紫垣
たとえば、「Integrity」という価値観について、日本ではこうだ、ではインドではどう展開するのか・・・など、非常に具体的な議論が交わされました。価値観の定義を皆が深く解釈する機会になったばかりでなく、グローバル組織全体の一体感の醸成にも貢献するイベントになったと思います。
古森
そういう動きが、まだ少ないですよね・・・。
紫垣

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そうかもしれません。肝心なのは、価値観の定義を多言語で解説することではなくて、価値観の意味するものを体験的な文脈で感じてもらえるかどうかです。「これがわが社の価値観だ」ではなく、「あなたのとったその行動が、まさに価値観の体現です!」という角度から入っていなかければなりません。グローバル組織におけるコミュニケーションでは、言語やカルチャーなど様々なバックグラウンドの違う人々が相手になりますので、一人称で感じて頂けるような工夫が欠かせないと思います。
古森
そのためには、やはり実際に海外現地組織をまわって、一人称の情報をとってくる必要がありますね。
紫垣
その点は、マストでしょう。先ほどの案件では、弊社のバイリンガル・プロフェッショナルが海外各地を走り回って情報を集めてきました。一方、別の日系大手企業では、同じように価値観浸透の取り組みをしていたのですが、結果としては日本人向けになっており、海外の社員の視点は入っていませんでした。決して悪気があって情報を隠しているのではなく、「まずは日本から」というモードなのだと思います。
古森
よくある景色ですね・・・。しかし、実際の組織はグローバル化が進んでおり、連結グループ内の海外従業員比率が高まっている企業が多いわけです。業績のかなり大きな部分を海外の従業員が支える構造になっている企業の場合、価値観コミュニケーションの対象もそれに応じて広がっていなければならないと思います。まずは、価値観伝達のプロセスとして、実際に海外現地の声を聴くことが出来るかどうか。
紫垣
日本企業のグローバル化は猛スピードで進んでいます。価値観コミュニケーションの重要性と課題の大きさに気付いているプロフェッショナルとして、私たちが声をあげていかなければならないと思います。

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